2025.05.23
英雄達の戦記「激突!ラスティニー」 プロローグ
シゴ星界で始まる新たな戦い。運命の分かれ道に至るまでの序章。シゴ星界で始まる新たな戦い。運命の分かれ道に至るまでの序章。
Illust. おぐち
01 side:RUSTINY
シゴ星界、ラスティニーの拠点にて――
「ふむ……。もうご到着か。いやはや、静点星は仕事が早くて助かるよ」
顔を上げ、ユークトゥルスが呟く。
真っ先に反応したのは、彼に絶大な信頼……否、信仰にも近い感情を寄せるシニストラだった。
「到着……? あ! もしかして! 第6星界から来るって言ってた奴らですか!?」
「その通りだよシニストラ。シゴ星界へ招待した10人の勇者たちが、いよいよ到着したようだ。と言ってもまずは7人。第一陣らしいがね」
「そいつらをブッ潰せばいいんですよね! 全員あたしに任せてくださいっ、ユークトゥルス様!」
興奮しながら話すシニストラの頭に、手が伸びる。
その手の主は、無論ユークトゥルスではない。
「シニたんテンアゲしててかわち~! わんこみたいだねぇ~!」
「ウザっ。いちいち触んなっての」
無遠慮に頭を撫でまわし、心底嫌そうな顔をしたシニストラに引き剥がされたのは、彼女を溺愛するファルーダ。
そんなふたりの姿をじっと見ていた最後のひとりであるデストラは、苦笑したまま口を開いた。
「こーら、シニストラちゃん。ファルーダちゃんはあなたのお姉ちゃんなんだから。ひどいこと言ったら駄目でしょう?」
「あんたもウザい! あいつがお姉ちゃんとかマジ無理だから!」
「……いけませんよ、シニストラちゃん。ママのことはママと呼ぶ、ファルーダちゃんもあいつなんて言ったら駄目。本当に悪い子なんだから……。ママ、何度も言ったわよねぇ……?」
「あっ。やーばいんだこれ」
先ほどまでの穏やかな雰囲気が一転し、デストラの表情と声が一気に冷たくなる。
彼女が自分の意に沿わない〝我が子〟に対し、執拗に折檻することを知っているファルーダは、さっとシニストラを庇うように前に出ると、花咲くような笑みを浮かべた。
「ママ~! あーしはシニたんの塩対応嬉しいから! ね? ママ大好きなファルちゃんに免じて許したげて? きゅるるんっ」
「そう? 本当に? ……仕方ないわ。いい子のファルーダちゃんがそう言うなら。今回だけよ?」
〝大好きなママ〟というキラーワードで機嫌を直し、再び穏やかに微笑むたデストラの姿に、ほっと安堵の溜息をつくファルーダ。
シニストラはその後ろで、〝一応、今回だけは感謝してあげる〟と少しだけぎこちなく呟いた。
「賑やかなのはいいことだ。キミには騒がしすぎるかい?」
3人の生み出す喧騒を遠巻きに眺めていたエルピスに、いつの間にか近づいていたユークトゥルスが問いかける。
「別に。ただの環境音に過ぎないもの」
「実に期待通りの返事だよ、エルピス」
満足気に頷いたユークトゥルスの口角が吊り上がる。
「キミがかつて感情豊かだったことなど、今となっては誰も信じないだろうね。アカを殺すのに葛藤していた頃が、最早懐かしく思える」
「……」
「アカが死ぬ理由さえも偽っていたのは本当に涙ぐましかったよ。あのアーカイブは永久保存ものだ! ハハハッ!」
「……そう」
過去を嘲笑されても、エルピスの感情は動かない。
淡々と相槌を打つだけの彼女に向けて再び心無い言葉が投げかけられる寸前、ファルーダの〝ユーさ~ん?〟という緩んだ声掛けがそれを止めた。「話逸らしちゃってごめんね~? とりまあーしら、やることあるのかな? シニたんがもう散歩前のわんこみたいにうきうきでさ~」
「おっと、すまない。もちろん、キミたちには頼みたいことがある」
「あたしがっ! シニストラが全部やりますっ!」
食い気味に言うシニストラを曖昧な笑みで押しとどめ、ユークトゥルスは大きく手を広げた。
「……これより訪れるのは、理の壊れた星界でも尚運命に打ち克ち続けた勇者たちだ。彼らは幾度も奇跡を起こし、世界の危機を乗り越えてきた」
目を閉じ、まるで演説するかのように語るユークトゥルス。
シニストラが恍惚とした目で見つめ、デストラとファルーダは素直に聞いている。
4人の姿を、エルピスは無感情な目で見つめていた。
「彼らは第6星界を蹂躙するにあたり、必ず邪魔になる存在だ。だからこそ、シゴ星界で〝もてなし〟―― まずはその心を折りたい。キミたちにはエルピスから賜った権能を使い、その手伝いをしてほしいというわけさ」
「ううん……? ごめんなさいね、ユークトゥルスちゃん。ママには少し難しいわ。どうすれば手伝ってあげられる?」
困ったように首を傾げるデストラに、ユークトゥルスは〝もちろん、今から詳細を説明するよ〟と人差し指を立てる。
「今はひと固まりになっている彼らを、私が数名ずつに分断する。3人には、分断されたゼクス使いをそれぞれ叩き、気力と戦力を削いでほしいというわけだ」
「えっと……殺しちゃダメなんですか?」
「無論、殺せるなら殺してしまって構わない。その方が私としても有難いよ」
「よかった~! がんばりますっ!」
「にこにこのシニたん、めっかわすぎん!?」
「うっさい」
冷たく言い返したのち、ちらりとデストラの様子を窺うシニストラ。
目は合ったものの、先ほどのファルーダのフォローが効いているのか、ただ首を傾げて微笑まれただけだった。
一方で、ユークトゥルスはエルピスに伺いを立てるように跪く。
「勝手にお膳立てしてしまったが。構わないね? エルピス」
「好きにすればいいわ。生命である以上はシゴ星界の理に耐えられないのだから、必要ないでしょうけれど」
「ところが、そうでもないようだ」
管理者たるユークトゥルスは、星界内で起きている異常事態も把握している。故にこそ気づいていた。
第6星界から訪れたゼクス使いたち。彼らが身に着けるリング・デバイスの有する奇跡の力が、理にさえも抗っているということに。
「第5星界の意思の残滓か……はたまたそれ以上の奇跡か。リング・デバイスは、君が書き換えた理にすら抗うらしい。生命活動を否定する、という理にね」
「どういうことかしら?」
「簡単な話さ。物資と生き延びる意思さえあれば、彼らはこの世界に負けないということだ」
「そう。構わないわ。それでも抗うと言うのなら、私が“枯渇”させるだけ」
エルピスは冷たい目で自分の手を見つめた。
今までの感情豊かな「レヴィー」であったなら、焦燥を抱いていただろう。
しかし今となっては、焦りどころか興味もない。
「というわけだ、3人とも。エルピスの負担を減らすためにも頼めるかい?」
「任せてください! あたし、絶対に圧し潰してやりますから!」
「りょ~。とりま戦いたくない~って歪曲させたればいいってことね?」
気合十分のシニストラとは対照的に、ファルーダはマイペースに答える。
そんな中、デストラだけがひどく困惑していた。
「困ったわ……。違う星界にいたとしても、元を辿れば私の子供たちのはず……。死なせてしまうなんて……。でもユークトゥルスちゃんが……」
デストラは、〝我が子〟を失うことを何よりも恐れている。
死ぬ寸前まで執拗に行う折檻も、彼女の中ではあくまで「躾」に過ぎない。殺す気など毛頭ないのだ。
これから相対する相手を殺した方が、〝我が子〟たるユークトゥルスは喜ぶ。しかし殺さねばならない対象もまた〝我が子〟である。
目に映る全てを〝子〟と捉えるデストラの壊れた精神の中で、矛盾を起こしてしまっていた。
「ああ、マム! 心配する必要はないさ」
気が付いたユークトゥルスが、そっとデストラの肩に手を置く。
「私の言い方が悪かったね。殺さずとも、みんなが〝いい子〟になればいいんだ」
「いい子に……?」
「貴女の“束縛”はそのために与えられた。そうだろう?」
「あ……。そう、そうね。……悪い子だったら……躾てしまえば、いいのよね?」
納得したデストラの口元が醜く歪んだ。
「うへ~。ママに捕まったら大変だねぇ。デストラママの躾って、ちょー厳しいんだから」
「ユークトゥルス様の邪魔になるやつらなんて、アレのおもちゃにされるくらいでちょうどいいでしょ」
少し離れて見ていたふたりは、聞こえないように小声で話し合う。
「さて、私は下準備をして来よう。デストラとファルーダは、連絡次第指定する座標へ向かってくれ」
「え? あ、あたしはどうするんですか!?」
「シニストラは一番強いだろう? だから切り札だ。後から訪れるゼクス使いたちの相手を頼むよ。それまではしっかり英気を養っておいてくれたまえ」
「えへ、えへへへ……。ユークトゥルス様にほめられちゃった。もちろん、任せてくださいっ!」
一瞬動揺したシニストラは、ユークトゥルスに上手く持ち上げられてすぐご機嫌になった。
それをふにゃふにゃの笑顔で眺めるファルーダと、まだ見ぬ子に思いを馳せるデストラ――
ユークトゥルスは思い思いの表情を見せる3人を冷たく一瞥したのち、エルピスに向けて優雅に一礼した。
「では、行ってくるよエルピス! キミはひとまず、そこで眺めているといい。彼女たちの頑張る姿をね」
02 side.HEROES
ユークトゥルスからの通信を受け、シゴ星界への出立を決定したゼクス使いたち。
黒の世界に居た5人とパートナーゼクスたちは、静点星のひとりであるハウエルの協力によって、星界間を移動することとなった。
「到着だよ~。だいじょうぶ? みんな割れちゃってないかな?」
「ああ、全員五体満足だ。丁寧な送迎に感謝する」
枯れ果てた大地に降り立ち、ハウエルに礼を述べた神門を除く4人とパートナーゼクスたちは周囲を見回す。
「生命活動を否定する」という理で書き換えられたシゴ星界には、一切の生命の気配がない。
「ほう、ここがシゴ星界とやらか。なるほど、死後の世界と言われればそうであろうな」
「緑の世界に似ていなくもないでござるが、生物の気配がない……。建物も廃墟ばかりにござるな」
「すっごい空気悪いね、ここ。なんだか気分もどんよりしてくるよ」
「そうですね。風も澱み切ってる……」
千歳とさくらが眉をひそめて会話する横で、ごほごほと咳き込むあづみ。
慌てたリゲルが、その小さな背中をさすった。
「あづみ、大丈夫!? ……酸素ボンベを持ってくるべきだったわ。そうだ、確かウェポンクラウドにガスマスクが……」
「へ、平気だよリゲル! えっと、少し息苦しい……くらいかな?」
「息苦しいですって!? 平気じゃないじゃない!」
既にあづみの病気は完治しているものの、生まれつきの体質自体は変わっていない。
身体が弱いということをリゲルから繰り返し聞かされていたほのめと迦陵頻伽は、素直にその身を案じた。
「本当に大丈夫ですの? 無理は禁物ですわよ、各務原ちゃん」
「そうだし。あづみはあほのめと違って繊細なんだから」
「ちょっと!? なんですのその言い方は! 確かにアタシは健康優良児ですけど!」
いつものように口論をするふたり。
死地に居るとは思えぬ時間が流れかけたところで、遠くの空からきらりと輝く軌跡が3つ。
流星のようなそれを真っ先に認めたのはフォスフラムだった。
「……! あれは流星……!? いけません!」
フォスフラムがさくらを庇って伏せると同時に、上空から情けない叫び声が響き渡る。
「どわぁあぁああっっ!? あかんあかんあかん墜ちる墜ちる墜ちるっ! フィエリテはぁあああん!! 助けてぇぇえっ!」
「静かに! 舌を噛みますよ飛鳥!」
高速で墜ちてくるひとつの軌跡と、速度が少しずつ緩まるふたつの軌跡。
やがて、ゼクス使いたちの前に5つの影が着地した。
「ふう……。なんとか間に合いました……」
「生きてる……わよね? 私たち」
「危ねェなおい! 殺すつもりかよてめェは!」
「ごめんなさいねえ。目標地点の座標、ちょっとだけ間違えちゃってたわ」
「ちょっとってレベルやなかったけど!?」
飛鳥を抱えたまま、疲れ切った表情でため息をついたのはフィエリテ。
その横で少しだけ青ざめた顔色をした綾瀬が胸をなでおろし、ズィーガーが咆哮する。
非難を一身に受けている青髪の女性―― 静点星のひとりたるクレモラは、ウィンクするとぺろりと舌を出して悪びれるふりをした。
そんな彼女に、様子を見ていたハウエルが食って掛かる。
「クーレーモーラー! ヒトは弱いから、タマゴみたいに大事に扱うってハーちゃんと約束した!」
「ちゃんと扱ってたわよ? 手が滑っちゃったの」
「手が滑っちゃうのはちゃんとって言わない! タマゴもヒトも割れちゃったら戻らないんだよ?」
「大丈夫よお。こんな訳のわからない理すら、リング・デバイスが捻じ曲げてるんだもの。実際、なんとかなったでしょう?」
「怖い思いしてたもん! だいじょうぶじゃないもん!」
ヒートアップし、がるがると唸るハウエルの肩を、見かねた飛鳥がぽんと叩く。
「あー、君? 僕らは大丈夫やからね。ほら見てみ、五体満足! 怒ってくれてありがとな」
「むぅぅぅ……」
「クレモラはんには送ってもらって感謝しとるよ。でも僕らが帰るときは、しっかり確認してな?」
「頑張るわあ」
庇っていた本人に〝大丈夫〟と言われたことで納得せざるを得なかったのか、ハウエルは不本意そうに頬を膨らませながらも口を閉じた。
ひとまず一見落着したところで、改めて神門がいま居る人員を数える。
「随分騒がしくなったが……。ともあれ、これで7人か」
「残りふたりは八千代が迎えに行って、そのまま一緒に来るんだっけ? で、合わせて10人ね」
シゴ星界に招集されたのは、10人のゼクス使い。
しかしあの場で出立を即決出来たのは神門、ほのめ、あづみ、八千代、さくら、千歳の6人しかおらず、足りない人員は神門がリング・デバイスの通信機能で募っている。
バシリカ・トゥームに居たメンバーと怜亜・七尾・ニーナの3人は既にシゴ星界に飛ばされていたためそもそも通信が届かず、それどころではなかった相馬や出雲、意識を失っていた紗那に加え、スイとうらら、ゆたかまでもが呼びかけを聞き逃していた。
結果的に応えたのは、青の世界にいた超ときさらのみである。
「姉君はまだ青の世界へ向かっている途中でしょうか。到着までは時間がかかりそうですね」
「知らない人たちだし、大丈夫だといいんだけど……。ううん。八千代のことは、私が一番に信頼しなくちゃね!」
一刻を争う事態であると判断していた神門は、青の世界からふたりが来るのを待っていられないと決断を下した。
そのため、代わりに八千代を青の世界へと派遣。超ときさらと合流してからシゴ星界に来るようにと指示している。
八千代を選んだのは、飛行能力を有するアルモタヘルの移動速度への期待が一番大きくはあったが、バシリカ・トゥームで育った彼女の戦闘能力への信頼もある。
だからこそ、さくらも八千代と分かれて先陣を切ることを受け入れたのであった。
「となると、まず必要なのは拠点にござるな。腰を落ち着ける場所がなければ合流もできまい」
「そうね。とにかくあづみが安全に休める場所をつくらないと」
「余も異論はない。この惨状を見るに、造るか見つけるかであろうが……。神門、どうする?」
龍膽の提案に、リゲルとアレキサンダーが頷く。
ほかのメンバーも、異を唱えることはなかった。神門は周囲の枯れ木や廃墟を観察し、どちらを選択するか僅かに思考する。
「持ち込めた物資には限りがある。アレキサンダーと龍膽の手があるにしても、一からの建築は時間を鑑みて避けたい。ひとまずは、強度を保っている廃墟を探すところからだな」
「――ご心配なく。その必要はないさ」
アレキサンダーでも龍膽でも飛鳥でもない男の声が返答する。
神門にとっては、聞き覚えのある声だった。
「貴様は……」
神門が記憶を辿るよりも早く、クレモラとハウエルが前に出た。
ゼクス使いたちを守るように、ハウエルが手を広げて立ち塞がる。クレモラはさりげなくハウエルの前に立っていた。
「あらあら、ユークトゥルスちゃんじゃない。相変わらず顔と声だけはいいんだから」
「でたな! 第6星界の子たちにひどいことするつもりでしょ!」
「おおっと! 名乗る前に全てのネタバレをされるとは。観測者たる静点星には敵わないな」
名を明かされたユークトゥルスは、大げさに肩を竦めて苦笑した。
だが、すぐにその笑みが消える。
「すまないが、用があるのは第6星界からの来訪者だけでね。キミたちにはご退場いただこう。特別に我がシゴ星界の内部を見せたんだ。是非ともお仲間に共有してくれたまえ!」
ユークトゥルスが手を振ると、緑のリソースの奔流に似たエネルギーが渦巻く。
「っ! ハウエルちゃん!」
「ひゃああっ!?」
咄嗟にハウエルに手を伸ばしたクレモラと、身を縮めたハウエル。
ふたりとも、ユークトゥルスの生み出したエネルギー球が消えるとともに忽然と姿を消した。
「ハウエルさんが消えちゃった……!」
「あづみ、私から離れないで!」
「クレモラはんもや! 何が起きとる!?」
一気に場の空気が変わった。
ゼクスたちは自分のパートナーを背に、ユークトゥルスとの間合いをはかる。
一方のユークトゥルスは、嘲るような笑みを浮かべた。
「心配しているのかい? なに、消滅したわけじゃない。この星界から退出してもらっただけさ」
「何が目的だ?」
「せっかく招待に応じてもらったんだ。少しは我が星界を楽しんでもらおうと思ってね」
神門の質問には明確に答えず、ユークトゥルスは綾瀬、ほのめ、さくらたちが固まるほうへ視線を向けた。
「勇者には試練がつきものだろう? 魔王城を目指してくれたまえよ、勇者たち!」
「っ、ズィーガー!」
「さくら、逃げてください!」
嫌な予感を察知したフォスフラムが先制攻撃を仕掛ける。
だが―― その攻撃ごと、4人と2匹は消え去った。
「綾瀬ちゃんッ!」
「ハハッ! 人の心配をしている場合かい?」
「まずい……!」
フィエリテが防護壁を生み出し、アレキサンダーの槍が、リゲルの剣が、龍膽の刀が、ユークトゥルスを貫こうとする。
だがその切っ先は届かない。抵抗むなしく、あづみ、千歳、飛鳥の3人とパートナーゼクスが消えた。
残されたのは、神門と槍をいなされて膝をついたアレキサンダーだけ。
「消滅させたというわけではないのだろう。……あいつらをどこへ飛ばした? 第6星界へ送り返したというわけではあるまい」
「それはもちろん! 彼らにはシゴ星界のどこかに飛んでもらったよ。さて、キミたちは無事合流出来るかな?」
「そうか。もうひとつ問おう。何故俺だけを残した?」
「もちろん、キミの軍師たる才能は駒が居なければ輝かないからさ。それに……」
ユークトゥルスは、恍惚とした笑みで答えた。
「〝ボク〟は黒崎神門と言う人間を非常に気に入っていてね。あの時のような絶望顔がまた見たいのさ。全てを失った、あの顔がね……!」
「……何の話だ? 貴様とは初対面の筈だがな」
「なに、こっちの話さ」
訝し気に聞き返す神門と、次の攻撃の機を狙うアレキサンダー。
ユークトゥルスは笑みを崩さないまま、ふたりに背を向けた。
「……さて、いまのキミたちと戦うつもりはないのでね。しばしシゴ星界を見て回るといい。また後で遊ぼうじゃないか、黒崎神門!」
高らかに言うと、ユークトゥルスは煙のように姿を消す。
神門とアレキサンダーだけが、その場に残された。