STORY

2024.06.10 【 2024.06.10 update

DramaCD ブックレットの裏の裏

NC DramaCD02
「ドラミコクインテット」裏

2014.12.28 release

ドラミコクインテット

「遠路はるばる伊賀の里を訪ねたというのに、やられたよ。まさか不在とはな」

 調査に区切りを付け、横須賀の米軍基地へ戻ってきたカール・ワイバーン教授は数日前の苦い記憶を思い出し、肩をすくめた。元妻の獅子島三尾から、ふたりの娘である獅子島・L・七尾が名古屋の大学へ特待生として招かれたと聞かされたのだ。

「エルは機械好きな子だったが、ロボット工学専攻とは想定外にも程がある。娘に平凡な道を歩ませたいというワイフの教育方針もあるのだろうが……。立派なくノ一に成長した姿を心待ちにしていた私の気持ちはどうなる! 残念だよ。ああ、実に残念だ! ホーリーシッ!」

 目頭をおさえ苦悩する初老の紳士を、行き交う人々が遠巻きに見守っている。

「……未来は人間の想像など軽く超えてくる。未来が約束されているのは、時を経ても違わず大和撫子なワイフくらいのものだよ。元ワイフだがね」

 ひとり納得した教授は晴れやかな笑顔を浮かべると、飛行場へ向かって歩き始めた。滞在の期限が迫っており、本国へ戻らなければならないからだ。

「お久しぶりですわね」

 唐突にかけられた声に振り向くと、黒装束の少女が佇んでいた。ドレスではなく忍者服だったらどんなに魅力的だろう。

「君は確か……。そう。竜の巫女パワハラ。無関係の者が遊んでいたら怒られるぞ。早くお家へ帰りなさい」

 彼女とは以前もこの基地で話をした。私の熱狂的なファンを自称するものの、夢と現実の区別をつけられない可哀想な子だったと記憶している。

「バラハラですわ。世界が大きく蠢き出しましたので、ご報告へ上がりました」

「君、私には時間がないんだ。悪いがまたの機会にしてくれないか」

 時計の文字盤を気にする教授に構わず、バラハラは語り始める。

「ある並行世界ではディアボロスと化した兄を弟が殺し、白の世界へつながる未来を確定させました。また別の並行世界では十二使徒と呼ばれる天使が人間の小娘に敗れ、ディアボロスの仮面を付けました。世界は順調に破滅や混沌への道を辿っているようですわ」

「私の並行世界論は未だ仮説の域を出ない。立証するための特異点が見つかるまではね。例え話に後日談を創作してくれても意味はないのだよ。君は私へなにを伝えたいのかな?」

「並行世界はきっとありますわ。例えばこんなものも」

 バラハラは教授へ1枚の紙片を手渡した。

 それには〝ドラミコクインテット最終公演 in イーストキャピタルドーム SS席〟と記されている。

「なあおい、君。……おや?」

 気付いた時には、少女は忽然と姿を消していた。

ショートストーリーの関連人物

カール・
ワイバーン
身長203cmのドイツ系アメリカ人。本職は北アーカム大学で物理学と量子力学を教える教授。専門は他世界解釈。忍者が活躍する小説に感化されて来日し、忍術を免許皆伝してしまう。妻・三尾を連れて帰国したあとも研究に心血を注ぎ、最終的に別居生活となる。ブラックポイントの発生後は「特異点」の候補者を探すため各地を飛び回っていたが、最終的に日本へ腰を落ち着けた。
獅子島 七尾 ワイバーン教授の娘。正式名は「獅子島・レーベ・七尾」。教授からは親しみをもって〝エル〟と呼ばれるが、本人は〝ナナ〟を切望している。アメリカ生まれの忍者の郷育ち。そのため忍術の心得があり、一般的な人間よりも高い運動能力を誇る。IQも高く、発明した「からくりロボ」にこれまた独自のAIを搭載させたりも。変形型キラーマシーン「シンクロトロン」のパイロット。
獅子島 三尾 ワイバーン教授の妻にして忍者の郷の筆頭。七尾には複雑な生い立ちに縛られず、好きなように過ごして欲しいと考えている。旧時間軸では娘の教育方針に対する考えの相違から、教授と離婚。ただし、険悪な関係となったわけではない。
バラハラ 黒の世界の竜の巫女。元々は清純な乙女だったとされるが「壊れた死の概念」に魅了され、性格破綻者となった。いまやすっかり退廃思想の持ち主であり、混沌とした状況に喜びを見出す。意味不明な発言の真贋を見定める術はない。

ショートストーリーの補足と解説

 ワイバーン教授はゼクス使いではありません。ゼクスと鉤爪や忍術で渡り合おうが、日本海溝を泳いで幻夢郷へ辿り着こうが、歴史に大した影響を与えません。

 ただの人間です。

 独力で世界の真実に迫る洞察力と分析力を持ちますが、あと一歩のところで届きません。ゼクスが闊歩する時代を過ごしながら、オカルトを信じません。ク・リトは認めますが、ディンギルを認めません。情報は求めますが、正解を求めません。

 ただの厄介オタクです。

 カードとしてはB11「神子達の戦場」のIGRとして初収録され、以降、一切再録されていません。同時に封入されたIGRには「赤の竜の巫女メイラル」「青の竜の巫女ユイ」「白の竜の巫女ニノ」「黒の竜の巫女バラハラ」「緑の竜の巫女クシュル」「蝶ヶ崎ほのめ」「百目鬼きさら」があり、特にきさらはB12「魔蠱の人形姫」からの先行収録でした。さらには「緑の竜の巫女クシュル」「蝶ヶ崎ほのめ」のCVRなんかもありましたね。

 フレーバーテキストの〝残念、私だよ。〟は強烈なインパクトを放っていた気がします。

 えーと……。

 もう補足することないんですが、どうしましょう。

 とりあえず、ややこしい家系図でも掲載してお茶を濁そうと思いましたが――

 昨日、リルフィに先行公開されてしまったため、教授ファン垂涎ものの 「超高精細カール・ワイバーンver.」を新たにご用意しました!!

家系図

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 4K(約829万画素)、6K(約1,866万画素)を超える 19,146,704画素のワイバーン教授 をお楽しみください。

関連リンク / 時系列順

 前後のショートストーリーです。前回との温度差に夏風邪をひきそうです。

 あまりに少なくて申し訳なくなったので、これを機に「ワイバーンの手記」を読みやすくしました。

  • DramaCD02「ドラミコクインテット」ブックレット裏

 余談ですが、新時間軸では青の世界で忍術指導をしたり、革命戦を手伝ったり、超君の父親を更生指導するなど、本業そっちのけで暴れまわっています。