各務原あづみの軌跡

あづみ

Illust. 藤真拓哉

[ 2015.05.22 掲載 / 2017.02.21 更新 ]

プロフィール

Name 各務原 あづみ Azumi Kagamihara
Age 14
Birth 9.6
Zodiac 乙女座
Size 149cm
Job 未就学
Family 父, 母
World 青の世界
Arrival 01, 03, ST, 05, 08, 09, 10, 14, 17, 20
Partner ソードスナイパー リゲル
Memo ・カナヅチ。
・温かい食べ物が好き。冷たい食べ物が苦手。
・ブラックポイント出現後の3年間意識不明になる。
・青の世界における「オリジナルXIII」の素体。
・神マルドゥクより《共振崩壊》の異能力を得る。

略歴

00 岐阜生まれ。
01 生まれつき身体が弱く、病気がち。
ブラックポイント発生。
02 ブラックポイントの発生と同時期、正体不明の奇病に冒され生死の境を彷徨う。発作を起こすとリソース症候群をより重篤にしたような症状が出る。
03 意識不明状態からの目覚め。リゲルと出会い、病気の特効薬と引き換えに青の世界のため、他の異世界と戦うことを強要される。薄茶色だった髪はいつの間にか変色していた。
あづみ14歳。ブラックポイント発生から3年経過(ブースターパック第1弾「異世界との邂逅」前後)。
04 メモリの最適化を施されたサイボーグであるはずのリゲルの言動が、あづみとの生活を通じ、徐々に “非効率的” で “人間的” なものへ変わってゆく。
05 名古屋でダームスタチウムが暴走。主犯格のケット・シー6匹の捕縛に参戦するが、取り逃がす。この事件以降、リゲルがケット・シーに対して敵意を燃やすようになる。
H.S.2-2:敗北
06 あづみの病気が青の世界の仕業だと知り、リゲルは心密かに青の世界からの離反を決意。実行のタイミングを伺う。
07 赤の世界の佐渡侵攻作戦《クリムゾンインベイジョン》に際して、別の極秘任務でたまたま佐渡を訪れていたあづみとリゲルは、青の世界の本隊が到着するまでの時間稼ぎに成功。黒崎神門の作戦を未然に防いだ。
H.S.1-2:勝利
08 増殖を繰り返す植物を駆除するべく指令を受けたあづみとリゲルは《佐渡防衛戦》で合流した青の世界の軍勢を率い、新潟・山形県境へ。青葉千歳らと交戦。
H.S.1-5:敗北
09 緑の世界との交戦中、あづみが発作に倒れる。相対した千歳の案内を受け、八大龍王 徳叉迦の持つ不思議な力で回復。徳叉迦からはさらに、高千穂にある《モウギ》さえあれば病気を完治できると聞かされる。
10 千歳&龍膽を仲間に加え、《モウギ》を手に入れるため九州の高千穂を目指す。
11 リゲルが青の世界との交信を断ち、上層部に翻意が知られることとなる。抹消されて然るべきウェポンクラウド(武装データを格納する電脳仮想空間)へのアクセス権などは、陰ながらアドミニストレータ ポラリスが偽装工作を行う。
12 青の世界からの刺客、オリジナルXIII Type.I “A-Z”と交戦。現れた敵が自分と生き写しの外見をしていることに、あづみは戸惑う。
13 鳴門海峡を渡る際に千歳&龍膽とはぐれる。
14 神戸にてリゲルがガルマータとトラブルを起こす。
NF DramaCD 6「りげる★くらいしす」
15 たまたま遭遇したメインクーン=ケット・シー=宿敵のおしおき権をかけ、岡山で倉敷世羅と交戦。
H.S.5-4:敗北
16 島根にてリゲルが出雲とトラブルを起こす。
NF DramaCD 6「りげる★くらいしす」
17 九州上陸直後にあづみがさらわれ、首謀者の九大英雄ジャンヌダルクらと戦闘になる。はぐれていた千歳たちと再会し、リゲルはあづみを取り戻すことに成功。
H.S.6-5:ミッション達成◎
18 高千穂に辿り着くもあづみの容態が急変。八大龍王 跋難陀から、あづみの病気は《モウギ》で治療できないと知らされる。重篤なあづみを救うため、リゲルが青の世界へ全面投降の意思を通達。千歳たちの側から姿を消す。
19 青の世界から派遣された治安維持部隊《ジズ》のオリジナルXIII Type.II “Sd03Ve”に捕縛される。あづみの発作を抑える薬と引き換えに、リゲルの記憶はアドミニストレータ ベガによって初期化された。
20 アドミニストレータ アルクトゥルスから、リゲルの記憶を戻したいなら青の世界のために戦うよう告げられる。
徳叉迦の秘術により赤と緑の世界のブラックポイントが転換(ブースターパック第13弾「変革の疾風」前後)。
21 リゲルとの思い出の品を守るため、リゲルと言い争う。
22 上層部からの指示で、再び緑の世界へ侵攻。リゲルは緑の世界の実力者、月下香との一騎打ちに敗れる。
H.S.6-4:敗北
神降臨(ブースターパック真神降臨編「神域との邂逅」前後)。
23 八方塞がりの状況でリゲルに八つ当たりをしてしまい、自己嫌悪に陥る。ずっと一緒にいたリゲルとは引き離され、頼れる者はない。精神的にも追い詰められてしまう。
24 神マルドゥクとの邂逅。絶望の果てに青の世界の崩壊を願う。あづみは《叶えし者》となり、あづみと隔離されているリゲルのボディにも神の刻印が浮かんだ。
あづみ:深度III(マルドゥク),リゲル:深度ゼロ
25 人格の崩壊が始まり、リゲルがシャスターに始末されたと思い込むあづみは、同じく神の眷属となった《叶えし者》たちの中でも深度の重篤な者を率い、青の世界への復讐を開始。あづみが神に与えられた異能力、機械を停止させる嘆きの声《共振崩壊》は無差別に効力を発揮し、各地で混乱を招いた。
あづみ:深度IV(マルドゥク),リゲル:深度ゼロ
26 空の治安維持部隊《ジズ》と交戦。あづみの拉致もしくは消去を命じられたツー・スリー(リゲル)と再会する。しかし、時を同じくして邪竜の骸から生み出された《死灰》が舞い落ち、神の影響を受け過ぎたあづみの魂は焼失を始めた。神の眷属として生涯を終える証として、その身体は足元から黒い像と化してゆく……。
あづみ:深度V(マルドゥク),リゲル:深度ゼロ
27 アドミニストレータ ポラリスに派遣されたオリジナルXIII Type.XI “Ze31Po”がふたりの元を訪れ、失われたリゲルの記憶と感情を回復させる。あづみを利用する青の世界に、あづみを孤独にさせた自分自身に、そしてあづみの心を弄んだ神へ怒りを露わにしたリゲルは、あづみの能力の影響で不具合を生じている機械の身体をものともせず、マルドゥクを打ち破った。その胸には神の刻印を打ち消すように竜の刻印が浮かんでいた。
あづみ:深度ゼロ,リゲル:深度マイナス
H.S.10-4:勝利
28 あづみは神の束縛を逃れたが、末期症状へ至った病は彼女の身体を蝕み続け、髪を真っ白に染め上げていた。リゲルが治安維持部隊の一員として青の世界から預かっていた薬を投与し、一命だけは取り留めたものの、意識は戻らず。リゲルは憔悴しきったあづみを抱きしめ、二度と離さないことを誓う。
29 数日間の昏睡状態を経て、あづみが意識を取り戻す。何故か患っていた病気が消え失せており、体力の回復を待つのみとなる。様子を見に訪れたポラリスにも明確な理由は分からず、ただ “奇跡” と告げた。
30 英雄達の戦記X《破神編》プロローグムービー収録予定。
H.S.10-8:2017年3月12日実施予定

旅立ちの物語

機械仕掛の祝歌

 カラスというには大きすぎる、その黒鳥は背に炎をまとっていた。
 明らかに現代の生態系から逸脱している異形……。
 しかし、それと対峙する小柄な少女は、この異常な状況に怯むこともなかった。
 彼女が天高く差し上げたカードデバイスからゼクスのパワーの源となる
 《リソース》が放出され、擬似ブラックポイントが形成される。

「クケェェェェ!」

 異形は歓喜に満ちた甲高い鳴き声を響かせると、少女めがけて舞い降りた。
 3本目の足が少女の頭を鷲掴みにしようとした刹那――

「シギャァァァァ!」

 上空から放たれた光の奔流が、ヤタガラスという名を持つゼクスを貫いた。
 熱線に焼かれ、全身から煙を噴きながら少女の目前に墜落したヤタガラスは、
 しかしながら、絶命に至っていない。
 燃え盛る炎が勢いを増し、少女を包みこまんと襲いかかる……!

「往生際が悪いわね」

 上空からもうひとりの少女が舞い降り、そのつま先でヤタガラスの首を踏みつけた。
 骨が折れる鈍い音と共にヤタガラスの火勢は衰えてゆく。
 炎が消失したのを確認すると、小柄な少女は差し上げたままだった腕を下ろした。
 呼応するように、もうひとりの少女が手にしていた象牙色の小銃も、
 空気中に溶けこむように消える。

 空から降りてきた少女の名はソードスナイパーリゲル。
 青の世界から来たバトルドレスという、華麗なパワードスーツを纏ったサイボーグである。
 陽の光を浴びて輝く金髪をかきあげつつ、リゲルは小柄な少女に声をかけた。

「ご苦労様。だいぶ戦いに迷いがなくなってきたわね」
「……死にたくないから戦うの、それって悪いこと?」
「ううん、あなたは正しいわ。生きるためには、覚悟を決めて戦わなくちゃならない。
 怖かったでしょうけど、怯まずリソースを放出してくれたのは正解だったわ」

 リゲルの惜しみない賛辞に対して、青みがかった銀髪の少女は照れくさそうに頷いた。
 彼女の名は各務原あづみ。
 リゲルのパートナーとして敵対勢力と戦っているが、本来、争いを好む性格ではない。
 14歳にしては低い背丈と幼い顔立ちが、見る者に弱々しい印象を与える。

「でも、あまり無茶してくれない方が私としては嬉しいんだけど」

 銃口を向ける仕草でリゲルが指を突きつけると、突然、あづみは力なく崩折れた。
 地面に這いつくばり、苦しそうに胸を抑える。

「あづみ!」
「……がっ……」
「しっかり! 今、薬を飲ませるからね!」

 リゲルはのた打ち回るあづみを抱え起こした。
 先ほど銃を消したのと逆に、どこからともなく宙空に現れた小瓶をかっさらい、
 あづみの口元にあてがうと、青い液体を彼女の口内へ注ぎ込んだ。

 なおも苦痛に顔を歪め胸を抑えていたあづみ。
 祈るように、不安げな表情で見守るリゲル。

 果てしなく長く感じられる時が流れ、ようやくあづみの顔に生気が戻ってきた。
 彼女はひときわ大きく荒い息を吐くと、か細い声で呟くのだった。

「わたし、いつまでこんなこと、続けなくちゃ、ならないんだろう……」
「あなたの病気は、分からない部分が多いの。
 青の世界の医療技術でも、発作を止めるのが精一杯。
 でも、いつかは特効薬が完成するから、敗けないで」
「病気のこともだけど……わたし、もう、戦いたくないよ……。
 生命の奪い合いなんて、耐えられない……」
「…………パートナーのあなたにこんなこと言いたくないけど、
 この薬はとても貴重なものだから……ごめんね…………」
「……そうね、分かってる。分かってた。取引だものね。わがままだよね。
 こっちこそごめんなさい。病気が治るまでは、青の世界のため、戦うから。  わたし、頑張るから……」

 虚空を眺め、自分に言い聞かせるよう言葉を紡ぐあづみを、
 リゲルはやるせない気持ちで見つめることしかできなかった。

◆ ◆ ◆ ◆

 遡ること3年前。
 いつものように、ごく普通の小学生らしい放課後を過ごしていたあづみは、
 急激なめまいの後、その場に倒れた。

(苦しい……息ができない……たすけて……)

「こっちだ! 急げ!」

 複数の足音が近づいてきて、仰向けに倒れていたあづみの胸に手を当てた。
 意識が朦朧とし、視界が定まらない。
 声もほとんど聞き取れず、側にいるのが男か女かさえも分からない。

「……心臓は微かに動いているが、呼吸をしていない」
「間に合いますか?」
「貴重なサンプルだ。死んでほしくはないな」

 あづみの身体に、手際よく様々な計器やケーブルが取り付けられてゆく。
 そして、先ほどの人物が再度あづみの胸に手を置いた。

(……たすけて……くれるの……?)

 あづみの微かな期待に真っ先に応えたのは、胸部を襲う猛烈な激痛。
 意識はそこで途切れた。

◆ ◆ ◆ ◆

 全国5ヶ所にブラックポイントが発生して以降。
 それまでの自然界には存在しなかった謎のパワー《リソース》の影響を受け、
 昏睡状態に陥るという一種の中毒症状が散見されるようになった。
 《リソース症候群》と呼ばれるものである。

 あづみの症状はそれに似ていたが、
 ブラックポイントから遠く離れても快方に向かわないなど、明らかに症状が重い。
 不定期的に発作を起こすようになってしまったあづみは何度も生死の境を彷徨い、
 《死》に対して過剰な恐怖を抱くようになってしまっていた。

「あれは、誰だったんだろう……」
「あれって?」
「わたしが初めて発作で倒れたとき、誰かがわたしを助けてくれたの。
 気づいた時は病院のベッドだったけど……リゲルじゃないんだよね?」
「そうね。私はあづみと知り合って間もないから」
「お礼、言いたいな」

 リゲルにはおおよその予想がついていた。
 同じ部隊に配属されている、調査スタッフの者たちだろう。
 青の世界に協力的で、素養ある人材を探している時期があったはずだ。
 おそらくその時、あづみは目をつけられ、今に至るのだろう。

「ところで、おかゆできたけど食べられる?
 さっきの奴を出汁と具に使ってみたから、理論的には美味しいはずよ」
「え……さっきのって……? い、いや!」
「あれ? 鳥肉、嫌いだっけ」
「気持ち悪い……無理……」

 差し出されたお椀を、両手を振って拒否し、涙までも浮かべて後ずさる、あづみ。
 さっきまで元気に生きていた動物をその場で食べられる子は、今時そういないだろう。
 相手がゼクスだったとしても大差はない。

「あ、ああー……そういうことか、参ったな。
 私って戦闘マシーンだから、そういった繊細なプログラムされてないみたいなのよね。
 じゃあ、これは私が食べることにして、あづみの分はつくり直すよ」
「う、うん……」

 リゲルはあづみから見えない物陰にお椀を隠すと、
 おでこに人差し指を当て、何やら真剣に悩み始めた。

(うーん。ほかにいい食材あったかな? そもそも、ほんとにおかゆでいいのかな?
 旧世代の料理知識をインストールしたいけど、非戦闘系のデータは入手が難しいのよね。
 地道に情報収集しようにも、私に快く教えてくれる人間がいるかどうか……)

「待って!」

 ついには頭を抱えてしゃがみこんでしまったリゲルに、あづみは慌てて声をかけた。
 気の毒になったのもあったが、もうひとつの罪悪感に耐え切れなくなったからだ。

「食べる。食べるよ!
 ゼクスだけど、敵だけど、死にたくなかったはずだから。
 わたしが生きるために、食べる」
「あづみ……」

 ヤタがゆをこわごわ口に運ぶあづみを、
 リゲルは愛おしげに眺めると同時に、悲しい思いに駆られた。

「おいしい」

(なぜこの子は、優しいんだろう。
 ゼクスに協力を強いられてる時点で、やけになってもおかしくないのに。
 それにひきかえ、私は、何なんだ。
 あづみを可哀想だと思うこのプログラムは、所詮作られた感情。
 いやになっちゃうな……)

 その夜。
 どこの勢力の仕業かは分からないが、
 何者かに破壊され尽くした廃屋で、ふたりは一夜を明かすことにした。

 あづみが寝静まったのを見計らって、リゲルは本国との通信を開始する。
 青の世界に忠誠を誓っている者として、毎晩の日課であった。

「近況報告は以上になります。それと……ひとつ、お尋ねしたいのですが」
『なんだね』
「あづみの……いえ、被験体《各務原あづみ》の特効薬はまだ完成しませんか?」
『そのようなものの開発は行なっていないが』
「え? 彼女との契約は特効薬が完成するまで、というものでは……」
『ならば余計、必要なかろう』

リゲルは上のやり方を瞬時に理解した。
あづみを利用していることは最初から理解しているつもりだったが、
契約が不誠実なものであったことに、衝撃を隠しきれなかった。

「いや、しかし、このままでは彼女の生命が!」
『何をうろたえている? 《各務原あづみ》の病気に特別なことなど何もない。
 調書《4510417-206118》を閲覧してみるといい。
 今後《各務原あづみ》をコントロールするために役立つはずだ』
「コントロールなどと……! あづみは私の大切な…………っ」
『どうした?』
「…………」
『《各務原あづみ》を心配するその気持ちは、我々がプログラムしたもの。
 思考回路の切り替えに不具合があるようだな。自己管理を徹底したまえ』
「……はい」

 通信終了後、しばし呆けていたリゲルだったが、
 上司の言葉を思い出し、ライブラリーへのアクセスを開始した。
 調書《4510417-206118》を閲覧したリゲルは過去の出来事を知ることとなる。

 あづみは心臓に、チップを埋め込まれていた。
 カードデバイスの技術を応用した、リソースを吸収する機能を持ったチップである。
 そのため、あづみの症状は一般のリソース中毒症状より重篤だったのだ。
 すべては3年前に仕組まれたこと。

 チップを除去すればあづみの病気は治るかもしれないが、リゲルに医療技術はない。
 ただ取り出せば済む話なのかどうかも、分からない。
 相談できる相手もいない。
 手術の手はずが整ったとして、あづみの体力で耐えられかどうかも分からない。

(それより私は、知らなかったとはいえ、
 あづみを騙していたんじゃないか……)

(馬鹿なことを。
 あづみが壊れたら次のパートナーを探せばいいだけのこと。
 私は青の世界に忠実でなければならない。
 そうプログラムされているのだから……)

 翌朝。
 結局一睡もできなかったリゲルは、東の空から昇ってくる太陽を眺めていた。
 背後であづみが起きだしてきた気配を確認する。

「おはよう、リゲル。もしかして寝てないの?」
「おはよう、あづみ。大切な話があるんだけど、聞いてくれるかな」
「ん……先に顔洗ってくる」
「後でいいよ。あなたは私のこと、どう思ってる?」
「? 友達、だと思ってるけど」

 リゲルの胸がちくりと傷んだ。

「……そう、なんだ。初めて会った時、私、言ったわよね」

『これは取引。あなたはカードデバイスを使う才能がある。
 それを青の世界のために使いなさい。
 その代償にあなたはこの薬を手に入れ命を長らえることができる』

「……って。
 私は青の世界のために行動してるの。あなたが死んでも悲しむことはない。
 私にとって、あなたはただのパートナー。それだけなの。
 だからあなたも私のことは、友達だなんて思わない方がいい」

 余計なことまでべらべらしゃべってしまう自分に、リゲルは違和感を覚えた。
 あづみに否定されることが怖かったから、一気にまくし立てた。
 やはり思考回路がショートしてしまっているらしい。

「えーと……お薬があってもなくても、リゲルがいなかったら、
 とっくにわたしは生きることを諦めてたと思う。
 だから、わたしにとってリゲルは大切な人。
 リゲルが励ましてくれるから、生きたいって思えるんだよ」
「それはあなたを励ますようにプログラムされているからで……」
「リゲルは勘違いしてる」

 急にあづみに手を取られ、リゲルの身体がびくっと震えた。

「友達ってのはね、片想いでもいいの。
 リゲルがどう思っていようとも、わたしはリゲルのこと、大好きだよ」

 人見知りで内気。
 あまり表情を動かすことのないあづみが、最高の笑顔でリゲルを見つめてきた。
 いつも気を張り詰めていたあづみが、初めて見せた笑顔かもしれない。
 太陽の光さえ直視できるリゲルの瞳が、あづみを正面に捉えることを拒んだ。

「そりゃあ……両想いになれるにこしたことないけど。
 プログラムされてるんじゃ、ちょっと無理かな」
「そんなことない!」

 不意に口を付いて出た大声に、あづみはもちろん、
 当のリゲルさえも驚きを隠せなかった。

「あ、あれ? わたし、リゲルにひどいこと言っちゃった……?」
「あづみは悪くないから!」

 うろたえるあづみに背を向け、リゲルは廃屋の屋上へ飛び上がった。
 涙が止まらない。
 あづみの健気さに、己の不甲斐なさに。

 リゲルは再度、上層部に連絡をとることにした。

「あづみの能力で諸世界を出し抜く妙案があります」
『ほう、言ってみたまえ』
「まだ可能性の段階ですので、詳しくはお伝えできません。
 下調べのために長期の遠征を行いたいので、鎮静薬を多めに処方頂きたく――」

 青の世界を裏切ったら、薬は手に入らなくなる。
 しかし、あづみを苦しませている青の世界は許せない。
 ならば、あづみを救う方法を見つけるまでは《駒》で居続けよう。
 翻意がばれるのも、時間の問題かもしれないが……。

 こんなことを考えるのも、最初から組まれたプログラムなんだろうか。
 いや、考えても無駄だ。

「たとえプログラムされた感情だったとしても、あなたを助けたい気持ちに嘘はない!」

 リゲルは誓った。
 これからは青の世界のためではなく、あづみを救うために動くことを。
 そして、あづみの本当の友達になることを……。

ゼクス・ゼロ 機械仕掛の祝歌 <きかいじかけのキャロル> 了

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