各務原あづみの軌跡

[ 2015.05.22 掲載 / 2020.12.11 更新 ]

あづみ

 

プロフィール

各務原 あづみ  リゲル
Name Azumi Kagamihara
Voice 小倉 唯
Temper 癒やし系 小動物系
Memo ・未来が閉ざされていた人物のひとり。
・不治の病を患っていた。現在は完治。
・機械を破壊する《共振崩壊》の異能力を
 神マルドゥクから授かる。現在も残存。
Favorite 温かい食べ物(コーンスープなど)
Birth 9.6(乙女座)14歳 ♀
Size 149cm 73-55-76
Job 未就学
Family 父 母
Shift 【青】オリジナルXIII
【白】十二使徒 天蝎宮 バルビエル
Name Rigel
Voice 内田 彩
Temper 過保護者 頑固
Memo ・オリジナルXIII Type.II のコピー。
・敵対者には一切の容赦なし。
・バトルドレスが重くて泳げない。
・ウェポンクラウドを私物化している。
Favorite あづみが好きなもの
Tribe 青の世界 バトルドレス ♀
Relation 青の世界の管理者「アドミニストレータ ベガ」からあづみ監視の任務を命じられたサイボーグ少女。心優しいあづみとの触れ合いや支援者の暗躍により封じられた感情を取り戻し、青の世界へ反旗を翻す。あづみを誰よりも理解しており、現在も世話になった人々への恩返しを目的とする旅に同行している。

略歴

00 岐阜生まれ。
01 生まれつき身体が弱く、病気がち。
ブラックポイント発生。
02 ブラックポイントの発生と同時期、正体不明の奇病に冒され生死の境を彷徨う。発作を起こすとリソース症候群をより重篤にしたような症状が出る。
03 意識不明状態からの目覚め。青の世界上層部からの使者、リゲルとの邂逅。病気の特効薬と引き換えに、青の世界のための戦いを強要される。薄茶色だった髪はいつの間にか変色していた。
あづみ14歳。ブラックポイント発生から3年経過(B01「異世界との邂逅」前後)。
04 最適化を施されたサイボーグであるはずのリゲルの言動が、あづみとの生活を通じ、徐々に非効率で人間的なものへ変わってゆく。
05 名古屋でダームスタチウムが暴走。主犯格のケット・シー6匹の捕縛に参戦するが、取り逃がす。リゲルがケット・シーに敵意を燃やすようになる。
H.S.2-2:敗北
06 あづみの病気が青の世界の仕業と知り、リゲルは青の世界からの離反を決意。実行のタイミングを伺う。
07 赤の世界の佐渡侵攻作戦「クリムゾンインベイジョン」に際して、別の極秘任務でたまたま佐渡を訪れていたあづみとリゲルは、青の世界の本隊が到着するまでの時間稼ぎに成功。黒崎神門の作戦を未然に防いだ。
H.S.1-2:勝利
08 増殖を繰り返す植物駆除の指令を受けたあづみとリゲルは「佐渡防衛戦」で合流した青の世界の軍勢を率い、新潟・山形県境へ。青葉千歳らと交戦。
H.S.1-5:敗北
09 緑の世界との交戦中、あづみが発作に倒れる。相対した千歳の案内を受け、八大龍王 徳叉迦の持つ不思議な力で回復。さらに、高千穂にある「モウギ」さえあれば病気を完治できると教えられる。
10 「モウギ」を手に入れるため九州の高千穂を目指す。千歳&龍膽が旅の仲間に加わる。
11 リゲルが青の世界との交信を断絶。翻意を示す。抹消されて然るべきウェポンクラウド(武装データを格納する電脳仮想空間)へのアクセス権は、陰ながらアドミニストレータ ポラリスが偽装工作を行った。
12 青の世界からの刺客、オリジナルXIII Type.I “A-Z”と交戦。自分と生き写しの外見に戸惑いつつも、撃退。
13 鳴門海峡を渡る際に千歳&龍膽とはぐれる。
14 神戸にてリゲルがガルマータとトラブルを起こす。
NF DramaCD 6「りげる★くらいしす」
15 たまたま遭遇しただけのメインクーン(ケット・シー)のおしおき権をかけ、岡山で倉敷世羅と交戦。
H.S.5-4:敗北
16 島根にてリゲルが都城出雲とトラブルを起こす。
NF DramaCD 6「りげる★くらいしす」
17 九州上陸直後にあづみがさらわれ、首謀者の九大英雄ジャンヌダルクらと戦闘になる。はぐれていた千歳&龍膽と再会し、あづみの奪還にも成功。
H.S.6-5:ミッション達成◎
18 高千穂に辿り着くも、あづみの容態が急変。八大龍王 跋難陀から「モウギ」で病気の治療はできないと知らされ、徳叉迦の悪意に気付く。重篤なあづみを救うため、リゲルが青の世界へ全面投降。千歳&龍膽との離別。
19 青の世界から派遣された治安維持部隊ジズのオリジナルXIII Type.II “Sd03Ve”に捕縛される。あづみの発作を抑える薬と引き換えに、アドミニストレータ ベガはリゲルの記憶を初期化。
20 アドミニストレータ アルクトゥルスから、リゲルの記憶を戻したいなら青の世界のために戦うよう告げられる。
赤と緑の世界のブラックポイントが転換(ブースターパック第13弾「変革の疾風」前後)。
21 リゲルとの思い出の品を守るため、リゲルと言い争う。
22 上層部からの指示で、再び緑の世界へ侵攻。月下香との一騎打ちに敗れる。
H.S.6-4:敗北
神の降臨(B16「神域との邂逅」前後)。
23 希望のない日々。機械的な応答しかしないリゲルに八つ当たりし、自己嫌悪。精神的に追い詰められてしまう。
24 神マルドゥクとの邂逅。絶望の果てに青の世界の崩壊を願う。あづみは《叶えし者》となり、あづみと隔離されているリゲルのボディにも神の刻印が浮かんだ。
あづみ:深度III(マルドゥク),リゲル:深度ゼロ
25 人格の崩壊。リゲルはシャスターに始末されたと思い込む。深度の重篤な《叶えし者》者を率い、青の世界への復讐を開始。神に与えられた異能力《共振崩壊》は無差別に機械を停止させた。嘆きの声は各地で混乱を招いた。
あづみ:深度IV(マルドゥク),リゲル:深度ゼロ
26 空の治安維持部隊ジズと交戦。あづみの拉致もしくは消去を命じられたType.II-3(リゲル)と再会する。時を同じくして邪竜の骸から生み出された《死灰》が舞い落ち、神の影響を受け過ぎたあづみの魂は焼失を始めた。神の眷属として生涯を終える証として、その身体は足元から黒い像と化してゆく。
あづみ:深度V(マルドゥク),リゲル:深度ゼロ
27 ポラリスに派遣されたオリジナルXIII Type.XIがふたりの元を訪れ、失われたリゲルの記憶と感情を回復させる。あづみを利用する青の世界に、あづみを孤独にさせた自分自身に、そして、あづみの心を弄んだ神へ怒りを露わにしたリゲルは、あづみの能力の影響で不具合を生じている機械の身体をものともせず、マルドゥクを打ち破った。その胸には神の刻印を打ち消すように竜の刻印が浮かんだ。
あづみ:深度ゼロ,リゲル:深度マイナス
H.S.10-4:勝利
28 神の束縛を逃れたものの、末期症状へ至った病は身体を蝕み続け、髪を真っ白に染め上げた。リゲルが治安維持部隊の一員として青の世界から預かった薬を投与し、一命を取り留める。リゲルは憔悴しきったあづみを抱きしめ、二度と離さないことを誓う。
29 数日間の昏睡状態を経て、あづみが意識を取り戻す。何故か患っていた病気が消え失せ、体力の回復を待つのみとなる。様子見に訪れたポラリスにも明確な理由は分からず、ただ〝奇跡〟と告げた。
あづみ×リゲル
30 支えてくれた人に報いるため、無差別に青の世界へ混乱を招いた償いのため、ポラリスの覇神ギルガメシュ討伐へ同行。
31 竜の巫女に導かれ邂逅した、神門、飛鳥、綾瀬、八千代、相馬、ポラリスらと協力して覇神ギルガメシュを討伐。しばし歓談後、体力を回復させるための療養へ。
H.S.10-8:勝利
神の追放。神域との封印境界《神門》を白の世界に設置(B20「祝福の蒼空」前後)。
32 神域から帰還。神の干渉がなくなったにも関わらず《共振崩壊》の異能力が残っていることに気付く。
33 精神の魔人アニムスの呪術に引き寄せられ、リゲルの魂が抜ける。ポラリスは〝疲れてたんじゃな〟で片付け、あづみも療養で寝込んでおり、ルートヴィヒとType.XIはこたつにこもっていたため、誰も異変に気付かなかった。
NF DramaCD 12「さみしがりアニムスとぬいぐるみフレンズ」
34 革命戦に参加するためポラリスとともに青の世界へ。シャスターが格納されているコントロールセンターへ潜入し、アドミニストレータ カノープスと合流。ベガ、アルタイル、オリジナルXIII Type.II, III, IVと対峙。すべて討ち倒した。別働隊のType.XIは中枢へ向かい、XIフラッグス ルートヴィヒはマーメイド艦隊へ合流している。
35 革命戦終結。ポラリスとデネボラ、ふたりのアドミニストレータ立ち会いのもと、ベガがあづみ体内のナノマシンを良性のものへ差し替える。
36 現代へ帰還。千歳に会うため東北を目指すが、吹雪に見舞われ遭難してしまう。
37 偶然見つけた山小屋で、似たような境遇のほのめ&迦陵頻伽、阿那婆達多&菖蒲、ウェアタイガー&ウェアパンサーと邂逅。吹雪をしのぐ数日間、ともに過ごす中で、神の再降臨を知る。
38 迦陵頻伽が《楽園の鑰匙》として神ナナヤにさらわれてしまう。東北へ向かう予定を変更し、救出へ。
39 赤の竜の巫女メイラルの導きにより、ほのめとともに神域へ潜入。封印解除の儀式「浄化の賛美歌」に迦陵頻伽ら《楽園の鑰匙》が参加させられている現場を目撃する。あづみは神ティアマトへ戦いを挑むも、力及ばず投降。……それは、ほのめが提案したバクチ混じりの作戦だった。
40 粛々と行われる《楽園の鑰匙》たちの儀式にさりげなく参加。不適当な要素が加わったことで浄化は不完全に終わり、怒れる神ティアマトとの全面対決が勃発する。互いを強く信じ合う絆の力により、あづみはリゲルとのイグニッション・オーバーブーストを発現。居合わせた者たちと共闘し、孤立無援の神を圧倒した。
41 神域から離脱。ほのめやミサキらとともに、再び東北を目指す。
神の再降臨(B26「境界を断つ剣」前後)。
42 あづみたちの活躍により、神の再降臨にはなんらかの制限がかかった状態となっている。
43 千年國へ到達。龍王殿や四皇蟲といった敵対勢力に囲まれた環境ながらも、しばらく平穏なひとときを過ごす。
44 ニグたんを名乗る、ゼクスでも人間でもない少女と遭遇。仲良くなる。
NF DramaCD 15「ニグたんの呼び声」
45 討神を建前とした千年國と龍王殿の休戦が決定。ほのめが和修吉を伴い、赤の世界のゼクスが集う神門の拠点へ出発。
46 酪農家を名乗るイリューダ・オロンドが千年國へ棲み着く。
47 桜街紗那率いる桜街家の面々がダームスタチウムに乗って千年國へ到達。予期せぬ巨大ロボの訪問に、好奇心旺盛な千年國の住人が続々と広場へ。聞いた者の「深度」を強制的に上昇、焼失させる神気の音声兵器「ウィルス・ヴォイス」がダームスタチウムの外部スピーカーから発せられた。
48 ニグたんが「触手のようにうねる髪」を振るい、住人を安全圏まで弾き飛ばす。大小の怪我を負いこそしたものの、あづみを含む全員が災厄を免れるが、かばったニグたんが漆黒の石像と化してしまう。
49 ニグたんが焼失したと思い込み、《叶えし者》だった頃に漆黒の石像が立ち並ぶ戦場で暴れ回ったトラウマが蘇る。異能力《共振崩壊》が発現。あらゆる機械を動作不全へ導く嘆きの声は、音声兵器ごとダームスタチウムを停止させた。リゲルは機械のパーツが軋む苦痛に耐えながら、放心状態で叫び続けるあづみを抱きしめた。
50 消耗の激しい能力を使用した反動で眠りに就いていたが、SHiFTライブの喧騒で目を覚ます。ミサキから住人は全員無事であること、数日経ったこと、イリューダがニグたんの仲間ヨグ・ソティスと諍いを起こしたと聞く。〝オロンドさんは気の良いおじさん。ヨグさんはニグたんの友達だからいい人。きっと誤解がある〟と考える。
51 紗那と千歳が相次いで失踪。
52 住人の大半が神と戦うため千年國を出発。あづみは大事を取って残留。
53 夜、争う声を聞きつけ、ミサキとともに見回りへ。現場にはイリューダ、ニグたん、ヨグの3人。刃物を向けるイリューダへ、ヨグの鍵杖から不思議な光弾が放たれた。誰よりも速く動いた守護者ガルマータがイリューダの代わりに光弾を受けて倒れ、ケィツゥーの叫びが響き渡った。
54 神マルドゥクがあづみ奪還のため降臨。悲しみや困惑の渦中にあった者たちを汚い言葉で煽りまくる。暴言の数々は全員の怒りを買い、集中砲火を受ける羽目となった。あづみが〝可哀想だよ……〟と諌める場面もあったが、神マルドゥクは塵ひとつ残さず消滅した。
英雄達の戦記G[第8戦]:快勝(91,190pt)
神の討祓(B33「輝望<フロンティア>」前後)。
55 ヨグの提案を受け、イリューダの異世界「幻夢郷(ドリーム・ワールド)」行きが決定。険悪な雰囲気を醸し出すケィツゥー、イリューダ、ヨグを放っておけず、反対するリゲルを押し切って同行を宣言。ニグたんはほかのゼクス使いを勧誘するため別行動となった。
56 離れた空間を繋げるヨグの能力で、あっという間に幻夢郷へ到達。幻想的な光景にただただ感動。夢想が現実となる幻夢郷の理についての説明を受け、ドリーム・キー【恋人】を受け取る。
57 リゲルが妄想をフル回転させ、1/1各務原あづみフィギュアを生成。まずまずの出来だったが、より完成度の高いあづみフィギュアの追求に取り憑かれてしまう。それを、あづみがドリーム・キーで小突いて破壊。いたちごっこはしばらく続いた。
58 ヨグがトネリ・マジョーリ(イリューダの娘)の身体から離れ、本来の精神体へ。ク・リトの王城にいる第二位王女ヤトゥーラを訪ねるよう告げて姿を消すが、娘が眠りから醒めないことに激昂したイリューダが離反。ミサキと協議し、王城ではなくイリューダとの再合流を優先する。
59 冷たい霧の森へ。方向感覚を失う。
60 冷たい霧の森を抜け、幻想的な景色から一転「黒の世界のブラックポイントに覆われたはずの現代」の景色が広がるエリアへ到達。直後、自分たちの世界がどのようなものであったかを忘れてしまう。
現時点で行動を共にする者 … 弓弦羽ミサキ

旅立ちの物語

機械仕掛の祝歌

 カラスというには大きすぎる、その黒鳥は背に炎をまとっていた。
 明らかに現代の生態系から逸脱している異形……。
 しかし、それと対峙する小柄な少女は、この異常な状況に怯むこともなかった。
 彼女が天高く差し上げたカードデバイスからゼクスのパワーの源となる
 《リソース》が放出され、擬似ブラックポイントが形成される。

「クケェェェェ!」

 異形は歓喜に満ちた甲高い鳴き声を響かせると、少女めがけて舞い降りた。
 3本目の足が少女の頭を鷲掴みにしようとした刹那――

「シギャァァァァ!」

 上空から放たれた光の奔流が、ヤタガラスという名を持つゼクスを貫いた。
 熱線に焼かれ、全身から煙を噴きながら少女の目前に墜落したヤタガラスは、
 しかしながら、絶命に至っていない。
 燃え盛る炎が勢いを増し、少女を包みこまんと襲いかかる……!

「往生際が悪いわね」

 上空からもうひとりの少女が舞い降り、そのつま先でヤタガラスの首を踏みつけた。
 骨が折れる鈍い音と共にヤタガラスの火勢は衰えてゆく。
 炎が消失したのを確認すると、小柄な少女は差し上げたままだった腕を下ろした。
 呼応するように、もうひとりの少女が手にしていた象牙色の小銃も、
 空気中に溶けこむように消える。

 空から降りてきた少女の名はソードスナイパーリゲル。
 青の世界から来たバトルドレスという、華麗なパワードスーツを纏ったサイボーグである。
 陽の光を浴びて輝く金髪をかきあげつつ、リゲルは小柄な少女に声をかけた。

「ご苦労様。だいぶ戦いに迷いがなくなってきたわね」
「……死にたくないから戦うの、それって悪いこと?」
「ううん、あなたは正しいわ。生きるためには、覚悟を決めて戦わなくちゃならない。
 怖かったでしょうけど、怯まずリソースを放出してくれたのは正解だったわ」

 リゲルの惜しみない賛辞に対して、青みがかった銀髪の少女は照れくさそうに頷いた。
 彼女の名は各務原あづみ。
 リゲルのパートナーとして敵対勢力と戦っているが、本来、争いを好む性格ではない。
 14歳にしては低い背丈と幼い顔立ちが、見る者に弱々しい印象を与える。

「でも、あまり無茶してくれない方が私としては嬉しいんだけど」

 銃口を向ける仕草でリゲルが指を突きつけると、突然、あづみは力なく崩折れた。
 地面に這いつくばり、苦しそうに胸を抑える。

「あづみ!」
「……がっ……」
「しっかり! 今、薬を飲ませるからね!」

 リゲルはのた打ち回るあづみを抱え起こした。
 先ほど銃を消したのと逆に、どこからともなく宙空に現れた小瓶をかっさらい、
 あづみの口元にあてがうと、青い液体を彼女の口内へ注ぎ込んだ。

 なおも苦痛に顔を歪め胸を抑えていたあづみ。
 祈るように、不安げな表情で見守るリゲル。

 果てしなく長く感じられる時が流れ、ようやくあづみの顔に生気が戻ってきた。
 彼女はひときわ大きく荒い息を吐くと、か細い声で呟くのだった。

「わたし、いつまでこんなこと、続けなくちゃ、ならないんだろう……」
「あなたの病気は、分からない部分が多いの。
 青の世界の医療技術でも、発作を止めるのが精一杯。
 でも、いつかは特効薬が完成するから、敗けないで」
「病気のこともだけど……わたし、もう、戦いたくないよ……。
 生命の奪い合いなんて、耐えられない……」
「…………パートナーのあなたにこんなこと言いたくないけど、
 この薬はとても貴重なものだから……ごめんね…………」
「……そうね、分かってる。分かってた。取引だものね。わがままだよね。
 こっちこそごめんなさい。病気が治るまでは、青の世界のため、戦うから。  わたし、頑張るから……」

 虚空を眺め、自分に言い聞かせるよう言葉を紡ぐあづみを、
 リゲルはやるせない気持ちで見つめることしかできなかった。

◆ ◆ ◆ ◆

 遡ること3年前。
 いつものように、ごく普通の小学生らしい放課後を過ごしていたあづみは、
 急激なめまいの後、その場に倒れた。

(苦しい……息ができない……たすけて……)

「こっちだ! 急げ!」

 複数の足音が近づいてきて、仰向けに倒れていたあづみの胸に手を当てた。
 意識が朦朧とし、視界が定まらない。
 声もほとんど聞き取れず、側にいるのが男か女かさえも分からない。

「……心臓は微かに動いているが、呼吸をしていない」
「間に合いますか?」
「貴重なサンプルだ。死んでほしくはないな」

 あづみの身体に、手際よく様々な計器やケーブルが取り付けられてゆく。
 そして、先ほどの人物が再度あづみの胸に手を置いた。

(……たすけて……くれるの……?)

 あづみの微かな期待に真っ先に応えたのは、胸部を襲う猛烈な激痛。
 意識はそこで途切れた。

◆ ◆ ◆ ◆

 全国5ヶ所にブラックポイントが発生して以降。
 それまでの自然界には存在しなかった謎のパワー《リソース》の影響を受け、
 昏睡状態に陥るという一種の中毒症状が散見されるようになった。
 《リソース症候群》と呼ばれるものである。

 あづみの症状はそれに似ていたが、
 ブラックポイントから遠く離れても快方に向かわないなど、明らかに症状が重い。
 不定期的に発作を起こすようになってしまったあづみは何度も生死の境を彷徨い、
 《死》に対して過剰な恐怖を抱くようになってしまっていた。

「あれは、誰だったんだろう……」
「あれって?」
「わたしが初めて発作で倒れたとき、誰かがわたしを助けてくれたの。
 気づいた時は病院のベッドだったけど……リゲルじゃないんだよね?」
「そうね。私はあづみと知り合って間もないから」
「お礼、言いたいな」

 リゲルにはおおよその予想がついていた。
 同じ部隊に配属されている、調査スタッフの者たちだろう。
 青の世界に協力的で、素養ある人材を探している時期があったはずだ。
 おそらくその時、あづみは目をつけられ、今に至るのだろう。

「ところで、おかゆできたけど食べられる?
 さっきの奴を出汁と具に使ってみたから、理論的には美味しいはずよ」
「え……さっきのって……? い、いや!」
「あれ? 鳥肉、嫌いだっけ」
「気持ち悪い……無理……」

 差し出されたお椀を、両手を振って拒否し、涙までも浮かべて後ずさる、あづみ。
 さっきまで元気に生きていた動物をその場で食べられる子は、今時そういないだろう。
 相手がゼクスだったとしても大差はない。

「あ、ああー……そういうことか、参ったな。
 私って戦闘マシーンだから、そういった繊細なプログラムされてないみたいなのよね。
 じゃあ、これは私が食べることにして、あづみの分はつくり直すよ」
「う、うん……」

 リゲルはあづみから見えない物陰にお椀を隠すと、
 おでこに人差し指を当て、何やら真剣に悩み始めた。

(うーん。ほかにいい食材あったかな? そもそも、ほんとにおかゆでいいのかな?
 旧世代の料理知識をインストールしたいけど、非戦闘系のデータは入手が難しいのよね。
 地道に情報収集しようにも、私に快く教えてくれる人間がいるかどうか……)

「待って!」

 ついには頭を抱えてしゃがみこんでしまったリゲルに、あづみは慌てて声をかけた。
 気の毒になったのもあったが、もうひとつの罪悪感に耐え切れなくなったからだ。

「食べる。食べるよ!
 ゼクスだけど、敵だけど、死にたくなかったはずだから。
 わたしが生きるために、食べる」
「あづみ……」

 ヤタがゆをこわごわ口に運ぶあづみを、
 リゲルは愛おしげに眺めると同時に、悲しい思いに駆られた。

「おいしい」

(なぜこの子は、優しいんだろう。
 ゼクスに協力を強いられてる時点で、やけになってもおかしくないのに。
 それにひきかえ、私は、何なんだ。
 あづみを可哀想だと思うこのプログラムは、所詮作られた感情。
 いやになっちゃうな……)

 その夜。
 どこの勢力の仕業かは分からないが、
 何者かに破壊され尽くした廃屋で、ふたりは一夜を明かすことにした。

 あづみが寝静まったのを見計らって、リゲルは本国との通信を開始する。
 青の世界に忠誠を誓っている者として、毎晩の日課であった。

「近況報告は以上になります。それと……ひとつ、お尋ねしたいのですが」
『なんだね』
「あづみの……いえ、被験体《各務原あづみ》の特効薬はまだ完成しませんか?」
『そのようなものの開発は行なっていないが』
「え? 彼女との契約は特効薬が完成するまで、というものでは……」
『ならば余計、必要なかろう』

リゲルは上のやり方を瞬時に理解した。
あづみを利用していることは最初から理解しているつもりだったが、
契約が不誠実なものであったことに、衝撃を隠しきれなかった。

「いや、しかし、このままでは彼女の生命が!」
『何をうろたえている? 《各務原あづみ》の病気に特別なことなど何もない。
 調書《4510417-206118》を閲覧してみるといい。
 今後《各務原あづみ》をコントロールするために役立つはずだ』
「コントロールなどと……! あづみは私の大切な…………っ」
『どうした?』
「…………」
『《各務原あづみ》を心配するその気持ちは、我々がプログラムしたもの。
 思考回路の切り替えに不具合があるようだな。自己管理を徹底したまえ』
「……はい」

 通信終了後、しばし呆けていたリゲルだったが、
 上司の言葉を思い出し、ライブラリーへのアクセスを開始した。
 調書《4510417-206118》を閲覧したリゲルは過去の出来事を知ることとなる。

 あづみは心臓に、チップを埋め込まれていた。
 カードデバイスの技術を応用した、リソースを吸収する機能を持ったチップである。
 そのため、あづみの症状は一般のリソース中毒症状より重篤だったのだ。
 すべては3年前に仕組まれたこと。

 チップを除去すればあづみの病気は治るかもしれないが、リゲルに医療技術はない。
 ただ取り出せば済む話なのかどうかも、分からない。
 相談できる相手もいない。
 手術の手はずが整ったとして、あづみの体力で耐えられかどうかも分からない。

(それより私は、知らなかったとはいえ、
 あづみを騙していたんじゃないか……)

(馬鹿なことを。
 あづみが壊れたら次のパートナーを探せばいいだけのこと。
 私は青の世界に忠実でなければならない。
 そうプログラムされているのだから……)

 翌朝。
 結局一睡もできなかったリゲルは、東の空から昇ってくる太陽を眺めていた。
 背後であづみが起きだしてきた気配を確認する。

「おはよう、リゲル。もしかして寝てないの?」
「おはよう、あづみ。大切な話があるんだけど、聞いてくれるかな」
「ん……先に顔洗ってくる」
「後でいいよ。あなたは私のこと、どう思ってる?」
「? 友達、だと思ってるけど」

 リゲルの胸がちくりと傷んだ。

「……そう、なんだ。初めて会った時、私、言ったわよね」

『これは取引。あなたはカードデバイスを使う才能がある。
 それを青の世界のために使いなさい。
 その代償にあなたはこの薬を手に入れ命を長らえることができる』

「……って。
 私は青の世界のために行動してるの。あなたが死んでも悲しむことはない。
 私にとって、あなたはただのパートナー。それだけなの。
 だからあなたも私のことは、友達だなんて思わない方がいい」

 余計なことまでべらべらしゃべってしまう自分に、リゲルは違和感を覚えた。
 あづみに否定されることが怖かったから、一気にまくし立てた。
 やはり思考回路がショートしてしまっているらしい。

「えーと……お薬があってもなくても、リゲルがいなかったら、
 とっくにわたしは生きることを諦めてたと思う。
 だから、わたしにとってリゲルは大切な人。
 リゲルが励ましてくれるから、生きたいって思えるんだよ」
「それはあなたを励ますようにプログラムされているからで……」
「リゲルは勘違いしてる」

 急にあづみに手を取られ、リゲルの身体がびくっと震えた。

「友達ってのはね、片想いでもいいの。
 リゲルがどう思っていようとも、わたしはリゲルのこと、大好きだよ」

 人見知りで内気。
 あまり表情を動かすことのないあづみが、最高の笑顔でリゲルを見つめてきた。
 いつも気を張り詰めていたあづみが、初めて見せた笑顔かもしれない。
 太陽の光さえ直視できるリゲルの瞳が、あづみを正面に捉えることを拒んだ。

「そりゃあ……両想いになれるにこしたことないけど。
 プログラムされてるんじゃ、ちょっと無理かな」
「そんなことない!」

 不意に口を付いて出た大声に、あづみはもちろん、
 当のリゲルさえも驚きを隠せなかった。

「あ、あれ? わたし、リゲルにひどいこと言っちゃった……?」
「あづみは悪くないから!」

 うろたえるあづみに背を向け、リゲルは廃屋の屋上へ飛び上がった。
 涙が止まらない。
 あづみの健気さに、己の不甲斐なさに。

 リゲルは再度、上層部に連絡をとることにした。

「あづみの能力で諸世界を出し抜く妙案があります」
『ほう、言ってみたまえ』
「まだ可能性の段階ですので、詳しくはお伝えできません。
 下調べのために長期の遠征を行いたいので、鎮静薬を多めに処方頂きたく――」

 青の世界を裏切ったら、薬は手に入らなくなる。
 しかし、あづみを苦しませている青の世界は許せない。
 ならば、あづみを救う方法を見つけるまでは《駒》で居続けよう。
 翻意がばれるのも、時間の問題かもしれないが……。

 こんなことを考えるのも、最初から組まれたプログラムなんだろうか。
 いや、考えても無駄だ。

「たとえプログラムされた感情だったとしても、あなたを助けたい気持ちに嘘はない!」

 リゲルは誓った。
 これからは青の世界のためではなく、あづみを救うために動くことを。
 そして、あづみの本当の友達になることを……。

ゼクス・ゼロ 機械仕掛の祝歌 <きかいじかけのキャロル> 了

ページトップへ